以前、トップアスリートのインタビュー調査をしていく中で、スランプの話になったことがあります。
彼は、元プロ野球選手で野球を始めた頃から才能が抜きんでており、早くから注目を集める選手でした。
順調なプロ生活を送るはずだった彼に、突然のスランプ。自暴自棄になることもあったようですが、ある時、今までは何も考えなくてもヒットが生まれ、感覚に頼っていたことに気づいたそうです。それから自分のバッティングを論理的に見直すことで、これまでの自分と何が違うのかその違いを分析したそうです。そうすることで、コーチに自分の言葉で現状を伝え「この部分が気になるので見てほしい」と具体的な指示を頼むことができるようになり症状は回復に向かったそうです。
調子がいい時は、深く考えなくても自然と体が動くってこと、私たちの生活でもありますよね。それが、ふとしたきっかけでプツっと方法を忘れてしまう。私自身も基本に忠実なタイプでも努力家でもなかったのでスランプに陥ったときはパニックになりました。そんなとき、上記の選手の話を思い出し、何をすべきか冷静に考えることができました。同時に、トップアスリートでもスランプに陥るんだから私がスランプになっても仕方ないことだなと気持ちが楽になりました。
ラッキーなことに、私は仕事柄、トップアスリートと直接話す機会に恵まれるし、聞き出す仕事なので時にはスランプや不安など‘弱み’についても耳にすることがあります。ただ、多くの皆さんはそういう機会はなかなか巡ってこないし、私が実際聞けるのもごくごく1部。だからこそ、メディアがあるのだと思います。マスメディアも、ソーシャルメディアも。スランプの話は、現役選手の場合ナイーブで話す相手や時期を間違えるとややこしいことになります。ただ、このストレス社会でスランプや不安から抜け出す方法を知りたい人は大勢いて、アスリートの経験をなんらかの心の支えにしたい人がいるというのも事実です。
メディア・トレーニングでいつも話すのですが、世界の舞台で緊張をどう克服したか、感情をコントロールしたかという経験談は、合唱コンクールで緊張している少年・少女に役立つことも充分考えられます。言いたいのは、アスリートの経験はスポーツファンのみならず多くの人の人生の参考になるということです。そして、私も数多くのアスリートと話しをしますが、一芸に秀でているのは確実ですが、ナイーブな方も多く不安や悩みは我々と多くの共通点があります。
社会がアスリートに求めているのは、輝かしい記録や劇的な勝利だけじゃないんです。勝った経験、負けた経験、不安に押しつぶされた経験すべてを社会に還元し共有することがアスリートの大きな役割です。それをメディアを通じておこなうお手伝いを我々はしています。勝った負けたのハラハラドキドキ感は刺激的ですが、それだけがスポーツ・アスリートの魅力ではないということをスポーツ側にも世の中の皆さんにも思ってもらえればメディア・トレーニングの半分は成功だと思っています。
最近、理想論をブログに書きすぎている気がしますが、まあさらりと読み流していただければ・・
NPO法人日本スポーツメディアトレーナー協会 糸川雅子