コーチング・クリニック1月号【連載】コーチングとメディア・トレーニングの共通点では、質問力を身に着けることの必要性について触れています。「質問するスキル」について少し補足しておきたいと思います。
私はコーチングのプロではありませんが、「質問する・聞く」ことを生業としてきました。アナウンサーの力量は‘話す’ことではなく、‘聞く’ことで測られるといっても過言ではありません。その際、質問するスキルも重要ですが、実は質問する前にインタビュー成功の秘訣は隠されています。キーワードは「好意」「関心」「共通点」。
例えば、私がインタビューを受ける場合、相手が協会ホームページも見てくれていないとわかると、モチベーションが下がります。以前、ある毒舌タレントさんがゲストの著書は必ず読んでいて、本番前にとにかく本を褒めるという話を聞いたことがあります。そうすると本番でいくら厳しいつっこみを入れても嫌な気にならないのだそうです。
インタビューには準備というものがあります。相手についての情報を集めるのです。インタビューでもトークショーでも、相手が誰か事前にわかっていることが多いので、経歴を調べる、過去のインタビューを見る、著書を読む、ブログやtwitterの投稿を見るなど、できる限り情報を集めます。相手について知っておくことでインタビューの流れを事前に構成することができるという利点はもちろん、相手に関心があることを示すことができます。自分に好意や関心をを抱いてくれている人には、心を開きやすいものです。さらに、人間は、共通点がある人に親近感を持つものなので、事前情報から出身地や趣味などできる限り共通点を見つけておくことでより良いインタビューを行うことが可能になります。
指導者の皆さんの場合、質問する相手は初対面ではなく毎日顔を合わす選手のことが多いでしょう。本を書いているわけではないし、調べなくても経歴は既に知っている。ただ、関心を示すことは必要です。例えば「最近、1番に練習に出てくるね」「3日連続で残って練習しているね」と声をかけるだけで違います。自分の変化に気づいてくれている、自分に関心を持ってくれているとわかれば答えやすくなりますし、質問する側は相手を導きやすくなります。共通点も同様に示すことができます。「私も学生時代は、勉強と部活の両立に悩んだよ」「俺も初めて試合に出た時は緊張したよ」と自分から共通点を提供することで答えやすい雰囲気を作り出すことが可能です。
アナウンサーとしてインタビューに慣れてきた頃、事前の準備を怠って小手先のスキルにまかせて失敗した経験があります。コーチングもインタビューも人と人を言葉でつなぐコミュニケーションです。どんなに質問するスキルを学んでも、答えやすい環境作り、信頼関係ができていなければ良い答えは望めないものです。自戒の念を込めて・・
次回は「相づち」について書きたいと思います。
NPO法人日本スポーツメディアトレーナー協会 糸川雅子